サンクトペテルブルグ留学体験記

露文教員の坂庭です。現在、サンクトペテルブルグ大学に留学中の露文3年生、平田翠さんがレポートを送ってきてくれましたので掲載します。カメラ好きな平田さんらしい、幻想的な写真とともにご覧ください。

家族に見送られ、旅路の間じゅうずっと泣き通しでペテルブルクの空港に降り立った八月の終わりから、早五ヶ月が過ぎました。留学生活も折り返し地点に立ち、これまであったことを思い返してみると、ずいぶんと色々なことを経験してきたような気がします。

サンクトペテルブルクはモスクワに次ぐロシア第二の街で、帝政ロシア時代が終わるまで長きにわたって首都として機能していました。世界大戦が始まってからはペトログラード、レニングラードと名称を変えながら対ドイツ戦の舞台として有名になります。現在でも、「政治・経済の中心都市」であるモスクワに対して「文化・芸術の中心都市」として、毎年多くの観光客が西欧風の美しい景観を見るためにペテルブルクに訪れます。また、北欧諸国やバルト三国と近いことも特徴のひとつだと言えます。

私がロシアへの留学を決めたとき、よく聞かれた質問が「ロシアってちゃんと物を売っているの?」「危なくないの?」でした。今やロシアは変わりました。皆がよく思い浮かべる社会主義的な光景は、急速な西欧資本主義的なそれに取って代わられたといっても過言ではないと思います。食料品や衣料品を買うために街に出てみれば、至るところにスーパーマーケットや種々の店(もちろん、日本と同じレジ方式です)があり、他店に負けじとセールが行われます。いるだけで心躍るようなデパートには日本にも展開しているような海外ブランドが軒を連ね、最新システムを駆使した3Dの映画館、フードコート、さらには屋内スケート場まで完備されていたりします。家電量販店には最新型のiPadやパソコン、デジカメが並んでいます。日本のデパートと比べてもクオリティは何ら変わりません。その一方で、古き良き(?)ソ連的な光景もしばしば見かけます。小さな売店では直接品物を手に取ることができないし、メトロやバスの車両の古さにちゃんと動くのかな?とヒヤヒヤするときもあります。新しさの中にほんの少しだけノスタルジーが混じったロシアをもっと知りたい、と留学日数を重ねるごとに想いを強くするばかりです。(そんな時、決まってかつての詩人が語った»Умом Россию не понять.»という一節を思い出します。)治安に関して言えば、ペテルブルクは観光都市なので人の集まるところ、名所にはスリが多いと領事館から注意を受けましたが、それ以外は他のヨーロッパの都市と変わりません。ロシアに対してよくない先入観、偏見を持っている人にこそ、ペテルブルクを訪れて「本当のロシア」を目撃してほしいなあ、と思うばかりです。

授業は外国人向けの文学部ロシア語学科に所属し、月曜日から金曜日まで二コマずつあります。曜日ごとに「会話」「読解・マスコミロシア語」「文法・作文」「文化・ビデオ聴解」「語彙文法」とテーマが分かれています。ТРКИの文法問題をクラス分けテストに代用するので、自分に合ったレベルでロシア語を学ぶことができるのが特徴です。それでも、大学で習ったことのない文法の説明をすべてロシア語で聞いたり、字幕なしでロシアの映画を見て感想を言い議論するのはとても難しくて、最初のころはこの授業が十ヶ月続くのかとすこし憂鬱にもなりましたが、今はだいぶグループの雰囲気に負けないで発言できるようになりました。どの先生も「間違えることは恥ずかしいことじゃないのよ」と仰ってくれるのが、心の支えになっています。また、モスクワと違ってユニークなのは「地元愛にあふれた」授業が展開される点にあります。会話の授業では、実際にペテルブルクの地図を使って数々の有名な寺院、聖堂などが市内のどこにあるのか表現できるように練習します。文化・ビデオ聴解の授業ではペテルブルク建設の歴史、ピョートル大帝の功績について詳しく勉強するのはもちろん、モスフィルムよりレンフィルム。そうでなくてもペテルブルクを舞台にした映画を数多く鑑賞しました。(そのたびに、ペテルブルクの景観の変わることない美しさに驚かされます。)文法のテキストには「ゼニトがスパルタクに勝利した」なんていう例文も載っていたりします。先生のみならず、この街で出会ったすべての人が胸を張って「ペテルブルク大好き!」と言ってくるのがとても面白いなあ、と思っています。

また、こちらに留学して思ったのは、「留学先の言葉を学び、その国の文化に触れる」だけが醍醐味ではない、ということです。授業で「ロシアで有名な迷信を知っているか?」「ロシア正教のクリスマスはどうやって過ごすのか?」と質問されて正しく答えられても、その先にはたいてい「日本にも同じような迷信はあるのか?」「日本にクリスマスの文化はあるのか?新年はどうやって過ごすのか?」という質問が待っています。もちろん、大学の必修授業であらかじめロシア文学、芸術、文化の基礎知識を蓄えておくのはとても重要です。しかし、留学生には一歩進んだ「自分の国の文化を伝える」力が求められているように思います。それは古典的・伝統的な日本の文化だけにとどまりません。同年代のロシア人と交流するときは。所謂「現代的・サブカルチャー的」な日本文化の知識すら求められます。漫画、アニメ、コスプレ、J-POP……ロシア人の日本に対する興味は、近年さらに増しているように思います。街ではロシア料理のお店より「СУШИスシ」のチェーン店が幅を利かせています。スーパーマーケットでは日本製の醤油が簡単に購入でき、本屋には村上春樹の『1Q84』とスシのレシピ本がずらりと陳列されています。それでもまだまだ誤解の多い、近いようでいて遠い国「日本」の正しい姿(といっては大袈裟ですが…)を伝えるために、ロシア語での表現力を鍛える毎日です。そんな想いを抱いた留学生が集まっているからこそ、多様な国の文化に触れることができるのも、留学の魅力のうちのひとつだと思っています。

絵画ならエルミタージュ美術館、ロシア美術館。観劇するならマリインスキー、ミハイロフスキー、アレクサンドリンスキー。クラシック音楽ならサンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団。イサク聖堂にカザン聖堂に血の上の教会。ぺトロパヴロフスク要塞、青銅の騎士像、クンストカメラ、巡洋艦オーロラ、作家の博物館、すこし足を伸ばせばツァールスコエ・セローにペテルゴフと、サンクトペテルブルクには見逃せない/聞き逃せないポイントがたくさんあります。悔いのないよう、残り五ヶ月の留学生活を充実したものにしたいと思っています。

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