インタビュー第3回・モスクワ三井物産有限会社 蒔田基生さん<2>

インタビュー第3回
モスクワ三井物産有限会社 資源・エネルギー課 蒔田基生さん1996年度卒



ロシア人のメンタリティは日本人と似ている。

――蒔田さんは包容力がありますからね、一緒にお酒を飲んだりもするですか?

もちろんします。これも楽しみのひとつです。お酒が入るとオフィスの中での英語混じりの会話とは違って、ロシア語でのコミュニケーションになってくる。その時には、もっと自分のロシア語を磨かなきゃと思いますね。お酒にまつわる話では困った事も有りましたね。一番困ったのは、あるロシア人のお客様がお酒飲み過ぎて時間にルーズになってしまった事かな。

ロシア人のメンタリティは日本人と似ているところがあると思います。一緒に仕事をしようという話をしているときに、もちろん数字も大事なんですが、欧米人と比べて数字よりも人間関係を重視する。俺はあいつと知り合いなんだとか、良く一緒に飲んだとか、お互いの信頼関係があってその上で仕事を作っていく。そんな風に仕事をさせてもらえる環境がある事は非常にやりがいがあるし嬉しいです。一緒にお酒を飲んだり、一緒に契約書の内容を詰めたり、夜遅くまで一緒に何かした・・・そういう事が次の仕事に繋がっていくというのが嬉しい。ロシアでのビジネスにおいて僕が一番好きな面ですね。

――休日もロシア人と過ごされたりすることがありますか?

会社のイベントやパーティで同僚と接する機会があります。クリスマスパーティとかモスクワ川での船上パーティとかね。あとは、ウィークデーでも夜遅くにディスコでダンスとかも盛り上がりますね(笑)。若いロシア人は、ミーハーなのが好きですね。民族音楽とかじゃなくってユーロビートとか、今ならレディガガとかかな(笑)。

――蒔田さんも踊られるですか?

もちろん!踊れって言われちゃうと踊っちゃいますよ(笑)。ディスコやクラブが多いじゃないですか。ロシアのディスコやクラブは日本と違って誰でも気軽に入れる雰囲気なんですよ。飲みたい人、踊りたい人が自由に入れる。お客様のパーティでクラブに招かれることもありますよ、貸切でね。「明るいディスコクラブ」で、とても楽しいですね。

――一年の仕事の流れも日本とは違いますか?

7月、8月に入るとバカンスに入ってしまいますから、その前までに契約は極力詰めようとします。休みに入ると1ヶ月半から2ヶ月、仕事が進まなくなりますからね。それから鉱山開発に関連し鉱山視察などでは、冬になると凍ってしまう様な地域ですと夏に行かないと、鉱山がどの様になっているか分析できませんから、季節のいい春から夏にかけて予定を組むようにします。ビジネスも自然環境を考慮してやらざるを得ないのです。季節的な制約は有りますが、ビジネスの場としてロシアはまだまだ伸びると思います。とにかくロシアは大きいです。特に極東地域開発において日本企業が活躍する場はまだまだあります。BRICsの中で、人口が増えていない国はロシアだけです。つまり、国内での資源消費は減っていく、するとどうしても輸出をしていかなければならない。輸出マーケットとして、これから伸び行くアジアを抱える日本はロシアにとっても非常に魅力的という事になります。ロシアは基本的に資源で潤っている国ですから、日本への資源輸出をより一生懸命やっていという素地があります。

■ロシア人の親切心に触れて楽しく過ごしています。

――ロシアで暮らしていて、日本のこれがあればいいのにと思うものはなんでしょう

日系のファミリーレストランは話に出ますね。もっと展開させたらいいんじゃないかな。ロシア人の外食ニーズを考えるとうまく行きそうです。アルバイト店員で何人ものお客さんを回す日本のファミレスシステムがあるでしょ、ピピっと注文を出すとキッチンにダイレクトに行くというあのシステムをパッケージで持っていくと売れるんじゃないかな。特にモスクワは、物価上昇率も高いですけど、お金持ちもどんどん増えてますから、クオリティの高いレストランが求められてる。日本のファミレスのサービスってそのままで向こうでは品質の高い部類に入ると思いますよ。良いビジネスチャンスになるかも知れません。日本の「サービス」という商品の輸出ですね。

――なるほど。モスクワでの休日はどのように過ごされてますか?

休日は家族を連れて、今の季節なら緑の多い公園へ行くことが多いですね。そこでロシア人の人たちと子どもを通じて仲良く話して。子ども同士が無邪気に遊ぶと大人もなんとなく顔がゆるむ。ロシア人は割と人懐っこく誰にでも話しかけてきてくれるから。あと、おばあさんもよく話しかけてきてくれる、公園でね。夏は日が長くて夜10時とか11時くらいまで明るいから、8時、9時頃まで公園にいたりして、のんびり過ごしてます。仕事のときは忙しくしてますが、休日は日本にいたときよりもゆったりしてますね。家族がモスクワに来る前、一人のときは美術館を回ったり芝居を観に行ったりしてました。文化の贅沢さを満喫できるのもメリットですね。芝居やバレエも気軽に観に行ける。劇場までの精神的な距離が近いと思います。良く行くんですね、みんな。劇場とか美術館とかが日常の中にある。普段着の芸術があるってところがロシアの良いところじゃないでしょうか。

――現地での日本人同士のネットワークはどうなってますか?

もちろん会社が有りますが、その他には日本人学校の生徒の親としてのネットワークが有ります。稲門会などの大学のOB会も有りますよ。モスクワは他の都市に比べて日本人の数は少ないです、ロンドンは2.5万人、デュッセルドルフは8千人くらいだったと思いますが、モスクワは1,500人くらいしかいません。一度コミュニティに入ってしまえばわきあいあいとしたお付き合いが楽しめると思います。

――ロシア人とのご近所付き合い東京と違うというお話ですが・・・。

僕のアパートの隣人は蜂蜜を持ってきてくれたり、ウイスキーを飲もうって誘ってくれたり気さくに声を掛けてくれます。日本人だから珍しいのかも知れませんが、日本のマンションではなかなか味わえなくなった環境ですよね。それから僕が家を借りてる大家さんも、休日に郊外の家に呼んでくれて、そこでバーベキューをしてくれたりとかね。もう2,3回遊びに行かせてもらいました。周囲のロシア人のそういう親切心があるおかげで楽しく過ごしていますよ。

そういえば、3月8日の国際婦人デーにも驚きましたね(注:ロシアではこの日に男性が女性たちに花を贈る習慣があり、街は花屋さんで溢れる)。普段からモスクワに花屋がいっぱいあるというのにそもそも驚いていたんですが、あの日は花をたくさん知り合いのロシア人女性に贈りましたよ。ロシア人の同僚から「あそこのバラが安い」とか聞いたりしてね(笑)。良い習慣といえば、会社では同僚の誕生日のときにはオフィスの皆で祝うんです。本人がスピーチをしてチームの皆が贈りものをして、そういうイベントが根付いていて、とても良い事だと思ってます。


■自分は何をやりたいのか、自問自答を繰り返すことが大事。


今は就職が厳しい時期ですが、第一線で活躍されている先輩として後輩たちに、社会人になる上でのアドバイスをいただけますか?

特に露文の学生に向けてですが、文学や文化が好きだと自分の世界にのめり込みがちになってしまう事もあるでしょう。せっかくの学生時代なんだから視野を広げることも大事だと思う。自分の専門も頑張る、そして視野も広げる。バランスよく、両方の視点を持って自分を高めていってほしいと思います。僕の経験から言うと、ロシア語とかロシア文化だけをやるのではなく、例えば法学の授業も取ってみるとかね。折角の総合大学で同じ大学に色々な人がいるのだから、違う視野を持つ人たちとの対話を増やしてみる。専門外の知識とか人脈を増やすことによって自分の目的を叶える方法って割と見つかったりするんです。もし僕が文学部の世界しか知らなかったら商社っていう発想はなかったでしょう。総合大学にいるのだから、自分が就職すべき分野を見つける手段としても、色々な人と交流し、尚且つ自分の専門を学びながら考えていけるのは非常にいい環境だと思います。僕が学生時代に、仕事を選ぶ上で努めてやったことは、自分が本当にやりたいことは何かという自問自答を繰り返ことです。就職活動を始めて急にそんなことを問うてもなかなか考えはまとまらないでしょう。でも、それもポジティヴに捉えて、本当に自分がやりたいことは何かをじっくりと内省する時間をとって欲しい。それは忘れてはいけません。僕も高校時代から商社を選んでたみたいに言ってましたが、いざ就職活動を始めたらマスコミとか広告代理店とかも受けたくなるし、どうしても迷う。でも「何がやりたいんだ」って自分に問いかけたら、僕が露文に入ったのはこれだったじゃないかと思い出して、ハッと気がついた。自分がなぜここにいるのかという原点を振り返ったんです。

――商社マンというお仕事の一番の魅力を教えていただけますか?

仕事のフィールドを限定されない点でしょうか。商社にはもちろん部門はありますけども、基本的に希望を出せば、金属、情報、機械と色々なことが出来ます。商売の方法においても、鉱山投資のプロを目指す事も出来るし、物の売買を通じてマーケティングのプロになることもできる。与えられるフィールドが広いというのは非常に魅力がある。その選択肢の広がりは地理的にも当てはまって、国内のみならずグローバルに活躍出来る場が与えられているというのがこの仕事の一番の魅力だと思っています。

――確かにそうですね。今、商社さんでロシア語のできる人の需要が高まっていると耳にしますが、実際にそれは本当なのですか?

そうですね。英語とロシア語、両方が出来ることが必要ですけど、ロシア語でビジネスをやるチャンスというのは、ロシアがアジア地域を見直している事も有り、これからも増えていくと思いますよ。政治の影響力が強いので、それによって多少状況は変わるかも知れません。

――露文に進むべきかどうか迷っている一年生になにかアドバイスをいただけますか。

僕がいた時代とは変わっているのかもしれないけれど、ロシア文学専修(現ロシア語ロシア文学コース)は、なかなか普通では会うことが出来ない貴重な人材が濃縮された専修だと思いますよ。ロシア語、ロシア文化、ロシア文学、どの分野に興味をもっていてもロシアという軸を通じて皆で議論する、その議論を通じて、自分の中のロシアに関する知識の核を作ることが出来る。将来ロシアに関係する仕事に就けば、その経験は益々役に立つだろうし、仮に僕のように長い事、ロシアと関わることができなくても、仲間とロシアを学んだということで社会人として大いに役に立った。商社でも他の会社でも役に立つと思います。もし卒業以来、ロシアに触れることが無かったとしても、日本という国は今後も世界の様々な国と取引せずには生きていけないわけだから、外国文化の幅の広さ、エッセンスを露文で学んでもらえば良いと思う。将来仕事をしていく上で大きな財産になるのは間違いないです。ビジネスだけで捉える訳にはいかない人間の幅、ビジネスにも活かせるであろう知識、両方を露文専修で学べると思う。

――ありがとうございます。最後にこれからの夢をお聞かせいただけますか?

ロシアと日本との間で、僕が担当している金属資源分野で、自分がロシアに来た証となるような仕事をしたいというのが今の第一の目標です。あまり具体的に言えませんけど(笑)露文の後輩の方々にお伝えて欲しいのは、モスクワに来る機会があれば気楽に僕を訪ねて欲しいとう事です。僕が東京に戻ってからでも構いません。もし僕の話に興味があれば、是非気軽に電話でもメールでもしてもらえればと思います。

――大変心強いです。本当にどうもありがとうございました。

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