モスクワっ子たちの2000年

 昨年(2000年)3月から今年の4月初めまで、モスクワのロシア国立人文大学に留学してまいりました。突然思い立ち、いざ飛び込んだモスクワでの留学生活を様々な方面から支えてくれた友人たちを、ほんの一部ですがここに紹介したいと思います。現在ロシアに暮す若者の日常を感じていただければ幸いです。

 オレグ(28歳):日本領事館に隣接する建物の半地下の仕事場で白昼からヌンチャクを振回す。体を鍛えるためだと言う細身の彼は長髪で、いつも革ジャン・革パンに身を包み酒瓶片手に仕事場に現れる。こんなファッションで集う若者を週末のアルバート街の片隅でも目にすることが出来るだろう。「まあいっか」が口癖で、自己新記録に挑戦するため何日もウォッカを飲み続け、仕事場に妻や救急車が駆け付けたことも1度や2度ではない…

 サーシャ(23歳):モスクワ郊外の一戸建に両親・妻子と暮す。ベラルーシへの高級中古車販売に従事。ぽんこつアウディを乗回し、会う度に違うガールフレンドと最新のアネクドートを得意げに披露する。熱心に「日本語覚えたい」と言いつつ1年で覚えた言葉は「タバコくれ」のみ。旅行したいのにパスポートの写真が「指名手配中」みたいで「これじゃベラルーシ以外通れないよ」と頻りに気にする彼は、お金持な父親のお陰で兵役回避中。
 
 ターニャ(27歳):会う度に斬新な髪型とファッションで登場する彼女はレストランのウェートレス。夕方から働くので、同居する母親と彼氏(セリョーガ)が5歳の娘マーシャの面倒を見る。マーシャの父親は現在わけあって服役中だが、小学校からの幼馴染セリョーガと結婚したいのだと話す。「料理は大っ嫌いだから、グルメなセリョーガの担当なの」と大袈裟な身振りとハスキーな声で話す彼女は華奢でセリョーガの3分の1ほどしかない。
 
 ユーリャ(26歳):初めて会った時、彼女はロシアの某アイドルグループのコンサート帰りで彼氏と一緒だった。ぽっちゃりめの頬を紅潮させ興奮気味にコンサート模様や世間話をする情報通。大らかな雰囲気とは裏腹に、男の子に負けじとMATを駆使して喋るギャップに仰天した。のちに、「あの時一緒だった人は実はゲイで、私の彼はこっち」と言って定期入れから17歳の美少年の写真を見せる彼女には驚かされてばかりだった。
 
 デニス(28歳):フリーターを名乗り政党関係でのバイト経験もある彼は自らパトリオットだと語る。「長く同棲している彼女と早く結婚したいから」と休日も近所のスーパーの肉売場で働く。試合のある日は友達を招きウォッカを持ってテレビの前に陣取り、自らもチームを組み近所の空地で試合をするサッカー狂。「息子が産まれた!」と道端で酒盛中の彼に年末偶然出会い、オレグ・デニソヴィチのために一緒にクリスマスツリーを買いに行った。

神岡 理恵子(大学院修士過程)
(《Вести》第16号 2001年5月10日発行 所収)

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