モスクワ留学体験記(2014年秋~)

2014年9月からモスクワ大学に留学している飯田玲奈さんの留学体験記です。写真もよせていただきました!

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こんにちは、露文4年の飯田です。今年のモスクワは暖冬で、マイナス20度前後になる日はほんとうに数日しかありませんでした。この文章を書いている2015年3月下旬現在、時には最高気温が10度を超えることもあり、思ったより早く暖かくなってしまったか…とそんなことを書いていたら加筆修正している間にまたマイナスまで下がり、日本で桜の開花情報が流れる中こちらでは雪が舞っています。そんな気まぐれな天候のなかで、残り3ヶ月強となった留学生活を振り返ってみたいと思います。

私が長期留学を決心するに至ったきっかけは、2年次の夏に1ヶ月訪れたウラジオストクでした。それまでどうしても「おそロシア」のエピソードばかりを想像していた私には、ウラジオストクでの1ヶ月は多かれ少なかれ驚きの連続でした。確かに水周りの環境は日本よりはるかに悪いし、ゴキブリとは毎日のように戦わざるを得ないし、授業が行われる建物はプレハブのような場所だし、案の定店にいるおばちゃんは怖いし、とマイナス面をあげることは可能なのですが、それよりもむしろ、思っていたよりも不自由なく「生活できてしまった」ことが一番の驚きでした。全体として「良くはないけど耐えられる」といった感じでしょうか。そのことに勇気づけられたのと、当時の自分のロシア語力ではコミュニケーションをとるにも不十分だと痛感したのとで、大学生活の集大成にと思い今回モスクワへの留学を志願しました。

モスクワでの生活に慣れるのはそれほど難しくありませんでした。寮には個室スペースがありますし、生活に必要なものは寮の中におおかた揃っているので、寮から一歩も出ずとも生活ができます。公共交通も日本より安い上にさまざまな手段があるので、メトロのほかにバス、トロリーバス、マルシュルートカ(大型ワゴンをバスのように使っているもの)が使えるようになればかなり快適に街の中を移動できるようになります。食についていえば、食堂以外の外食は割高ですが食材自体は割安のものが多いです。来てしばらくの手続きラッシュがどうしても煩雑でトラブルが起きやすいのですが、それらがひと段落するころにはこちらでの生活を楽しむ余裕が出てきました。それからはトラブルもだいたい笑い話で済むようになっています。

短い秋の通学路と寮

短い秋の通学路と寮

 

ただ語学に関してはいまだ悪戦苦闘の日々です。さすがにこちらについた当初の、「授業中に何を話しているのかよく分からない」状態からは脱しましたが、進歩よりは不足を感じることのほうが多く、改めてロシア語の難しさを痛感しています。ロシア人自身もかなり多くの人が「ロシア語は難しい」「学生時代一番苦手(嫌い)だったのがロシア語の授業だった」などと言うくらいなので、外国人で、しかもヨーロッパとは遠く離れた私たちがより自由にロシア語を使えるようになるにはかなりの努力が必要なのかもしれません。ロシア語について先生ではないロシア人に質問をすると、かなりの確率でちょっとした論争が起こるのが面白くもあります。とはいえやはり現地でロシア語を学ぶのはかなり有意義で、単純に触れるロシア語の量が増えるからだけではなく、授業でも「なぜこのような表現なのか」「ロシア人がこの言葉や表現をどう受け取るか」ということに多く言及するので、ロシア語の構造やそれに付随するロシア人の考えがより見えてきてとても興味深いです。

例えば、ロシア語にはたくさんの動詞がありますが、語幹は同じでも接頭辞を変えることでニュアンスや着目する部分が変わる、という動詞がいくつもあります。それらの違いは一見分からないものもありますが、接頭辞それ自体の意味から推測できるものも多いです。今授業で習っているлить(注ぐ、こぼす)という動詞でいえば、наをつけてналитьとすると「からっぽの容器に一杯になるまでそそぐ」、доをつけてдолитьとすると「(ある一定の量まで足りていないのでそこまで)そそぐ」という、結果は似ているけれど過程や着目している点が異なる動詞になります。そのように同じ語幹を持つ動詞を集めて比較するといった学習は、日本ではしていなかったので新鮮です。また表現の面で言えば、動詞の受身形や被動形動詞を使ったほうがより公的な文章になるなどがあります。もちろんとても難しいですし自分で使いこなすにはほど遠いですが、このような学習は、より適切な言葉や表現をより適切な場面で使えるようになるためにとても有効だと思いますし、今後学習を続けていくにあたって大事な観点なのでしょう。

 

фонетика (発音)の授業の教室。マイク付きヘッドホンで先生と自分の発音を録音し再生できる。

фонетика (発音)の授業の教室。マイク付きヘッドホンで先生と自分の発音を録音し再生できる

 

ロシア人と交流する機会は意外と少ないです。こちらに来るときに手続き等の手伝いをしてくれた子達や、日本人とロシア人の交流会で知り合うのが主になっています。予想以上に日本語が堪能な人が多く刺激になりますし、ロシア語力に不安がある段階でもなじむことができます。交流会はにぎやかですが、大勢との交流で疲れることもあるので、そのような集まりが苦手であれば、気の合うロシア人を早めに見つけてその人と個人的に会えるようになればいいのかなと感じます。

その代わりに、思ったよりもよく交流するようになったのが留学生同士です。日本人同士の交流もありとてもお世話になっていますが、私は幸いにもクラスメイトに恵まれ、だいたいのメンバーが1年間一緒なこともあってかクラスメイトとの交流がさかんになりました。授業後にご飯を食べに行くのが主ですが、趣味が合う人同士でどこかに出かけてみたり、ロシアにあるお互いの国のレストランにいって本場とくらべてみたり、場合によっては一緒に旅行しよう、という話が持ち上がることもあります。今までほとんど外国人の友達がいなかった私にとってはとても新鮮で、ただ友達ということだけではなく、共に同じ言語を学ぶ仲間として、お互い四苦八苦しながら言いたいことを伝えよう、相手の言っていることを理解しようとするのがとても楽しいです。私のクラスメイトは台湾人と韓国人で全員アジア系のクラスなのですが、日本語を勉強した経験があったり、日本文化にとても詳しかったりととても驚かされます。一方こちらは、韓国が旧正月で新年を祝うことすら知らなかったくらいで、しばしば恥ずかしさを覚えています。ステレオタイプに流され、もともと知識もなかった自分を反省すると共に、国や地域単位で文化や習慣を理解することと、個人のもつ性格で理解することの両方の大切さを感じる日々です。

 

第1学期最後の授業にて、先生とクラスメイトと

第1学期最後の授業にて、先生とクラスメイトと

 

ロシアは今深刻なルーブル安で、1ルーブル2円くらいです(私たちの到着当初は1ルーブル3円くらい)。また、2月末には赤の広場付近でロシアの元副首相が暗殺されるという事件もありました。客観的な情勢としては完全に安心できるという状況ではありません。でも現地で生活していて、それほど大きな動揺を感じることは今のところありません。何か起こっていても私がたまたま知らないだけかもしれませんし、確かにルーブル安はロシア人の生活にダメージを与えていますが、それでも雰囲気がそれほど張り詰めていないのは、なんだかんだこの国はたくましいからなのだろうと思います。色々なものが大雑把で、新しいものに取り替えるのもいいけど古いものが使えればそれでよし、とりあえず今日を生きて、後のことは後で考えよう。そんな精神がこの国には満ちているような気がします。これがいいとは言い切れないでしょうが、少なくとも私には心地よいです。「そんなにきりきりしなくたって人生はどうにかなるよ」と言われているかのようです。

出発が4年後期であったにも関わらず、「ロシア語力を向上させたい、ロシアの現地の様子をいろいろと見てみたい」というかなり漠然とした動機でこちらに来てしまいましたが、予想通りの経験も予想外の経験も色々としているかと思います。3ヵ月後を晴れやかな気持ちで迎えられるように、この留学生活をまとめつつ、できる限り多くのものを吸収したいところです。

 

ボリショイ劇場前のプロジェクションマッピング

ボリショイ劇場前のプロジェクションマッピング

 

 

クリスマスシーズンのグム内部

クリスマスシーズンのグム内部

 

 

 

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