モスクワ留学レポート

露文教員の坂庭です。2012年秋からモスクワ大学に留学中の露文生、小林聡さんが留学レポートを送ってきてくれました。特に「音楽好き」にはたまらない情報が満載です。

さて、モスクワに来て最初に驚いたのは、自分の部屋に着いた翌日にパソコンがネットに繋がったことです。LANケーブルを壁に繋いで、2、3回クリックしただけでした。こんなことを書くロシアに失礼ですが、それでもほんの少し年上の方の留学体験を聞くと、ネット関係は大変だったとのことだったので、本当に意外でした。モスクワは本当にかなりの速さで変わっていっているんだな、と感じた瞬間です。しかしその実情は日本ではなかなか知ることができません。もし今後長期なり短期なり留学を予定されている方は、ロシアで生活している日本人留学生や駐在員の家族などが更新しているブログをチェックしてみるとよいかと思います。そのようなブログは意外と多く、リアルタイムのロシアを知ることができます。もちろん、前情報なしで飛び込む、サバイバル精神に溢れた猛者も素晴らしいと思いますが。ただ、モスクワがかなりのスピードで発展している、ということは逆に言えばソビエトの面影を残したロシアはもう今しか体験できないということです。あと10年経ってしまえばきっともう別の国でしょう。今のうちに1週間でも足を踏み入れておくことをお勧めします。

さてさて、もうモスクワに来て7か月ぐらいたってしまいました。授業や、お役所スタンプラリー、寮や町の様子などは誰かが書いてくれるだろうと思うので、グレーチカを使った超・食費節約術でも書こうかと思ったのですが、ここはやはり音楽関係にします。

①演奏会

日本人はロシアに行くとバレエやオペラばっかり見ますが、そんなことではいけません! 少しずつ勢いを取り戻しつつあるオーケストラのコンサートもしっかりと体感しましょう!

モスクワにはコンサートを催す組織がいくつかありますが「モスクワフィルハーモニー」と「モスクワ音楽院」の2つを押さえておけばよい演奏会にたどり着けます。ホームページの演奏会情報を紙にメモしてカッサで出せば、簡単にチケットを買うのも簡単です。カッサは、それぞれの組織専用のカッサがコンサートホールや音楽院にあり、例えば「フィルハーモニー主催の音楽院のホールを使った○×管弦楽団の演奏会」のチケットはコンサートホールや音楽院の「フィルハーモニー専用カッサ」で買えます。一度間違って「音楽院専用カッサ」へ行ってしまい、おばちゃんと「そんな演奏会ないわよ!」「いや絶対あるから探して!」といった喧嘩になってしまいました…

また、ロシアのオーケストラは無駄に名前が長い上にどれも単語が似通っているので本当にわかりにくいです。テレビ番組やパンフレット、チケットの印刷面等では、音楽監督の名前で呼んだり、決められた略称を使うこともあるので注意が必要です。そういえばロシアの演奏会の伝統として、客席の拍手がだんだん揃ってきて手拍子になる、というのがあります。一体感を感じて気持ちがいいので、ぜひ体験してみてください。

また、クラシック音楽に混ざって、バラライカアンサンブルやアレクサンドロフ赤軍合唱団など、民謡や民族音楽の公演も行われます。これらの公演は比較的数が少なめなので、見逃せません!

クリン チャイコフスキーの家

②オペラ&バレエ

モスクワでのオペラ・バレエといったらボリショイ劇場ですが、チケットがすぐに売れてしまい、値段も相当高いです。最近ではお家騒動も表ざたになり、正直なところ学生がなけなしの金を叩いていく価値があるかはわかりません。逆にお勧めなのはスタニスラフスキー&ネミロヴィチ=ダンチェンコ劇場です。ここは大きな劇場ではないのですが、どの席からでも舞台がしっかりと見え、値段もお手頃です(ボリショイ劇場では2000рの席でも立たないと見えなかった、という人もいました)。演目もモーツァルトの世界的オペラからロシアのかなりマイナーな作品まで幅広く、いくら公演スケジュールを見ても見飽きません!

また、今年新しいホールがオープンしたペテルブルグのマリインスキー劇場は、行動的な総裁ゲルギエフのもと、どんどん進化しています。この劇場はロシアの大学の学生証があれば、なんと全席学割が利きます。演目にもよるのでしょうが、僕は1000рも安くチケットが買うことができました。もともとペテルブルグはロシアの大学の学生への待遇がかなりよく、エルミタージュ美術館でさえ無料で入れます。ロシアの学生証があるなら、絶対に行くべき町でしょう。

その他ボリショイと違うマリインスキーの大きな利点に、チケットがEチケットで買えるということがあります。劇場のホームページで演目を選択しクレジットカードで支払うと、メールでEチケットが送られてきます。それを印刷したものを受付で見せればOKです。それはつまり、旅行会社に委託することなく日本にいながらにして楽にチケットが手に入る、ということではないですか! ペテルブルグへ旅行の際はぜひマリインスキーをチェックしてみてください。ゲルギエフの「ペテルブルグを世界一の音楽文化都市にする!」という熱意、というか野望が肌で体感できます。ペテルブルグ訪れる際はぜひ!

ちなみにペテルブルグフィルハーモニー主催の演奏会もホームページで買うことができます。これはメールで送られて来る番号を当日カッサで言い、チケットと引き換える、というシステムです。ただ、僕はチケットを買って浮かれているところで、スリに会いました。幸いにもその場で取り返したものの、ペテルブルグでスリに会った話はよく聞くので気を付けてください。

クラシックバレエ以外で興味深いのは民族舞踊です。モイセーエフ・バレエ団が一番有名かと思います。コサックダンスは本当にテンションが上がりますよ。

ペテルブルグ リムスキー=コルサコフの家

③CDショップ

残念ながら、チャイコフスキーなどのメジャーなロシアの作曲家に関しても東京の方が圧倒的に品ぞろえがよいです。しかし、国産のレーベル「メロディヤ」に関してはかなり安価で買うことがでます。オススメはメトロ・マヤコフスカヤの「ミール・ムーズィカ」とノヴォクズネツカヤの「プルプルヌイ・レギオン(←英語のパープル)」です。ロシアでは客が少ない小規模な店舗の場合、店員がこちらの動きを一挙一動監視していることもしばしばです。これは博物館の展示室でも同じで、かなり不快なのですが、やはり現時点でのロシアの状況では、それが必要なのかもしれません。ただ3度目の来店ぐらいから、どうも店のおじさんに顔を覚えられたらしく、無愛想な表情は崩さないまま「こっちにカリンニコフいっぱいあるぞ」とか「襟がめくれているぞ」みたいに、よく絡まれるようになりました…

また、少し中心部から離れたところにあるガルブーシカという電気街の、クラシック専門店の店員は、珍しくロシア人ではありませんでした。中央アジアの人かコーカサスの人か僕にはよく分かりませんが、とても気のいい人で、英単語を並べて頑張って話をしてくれます。立派なお店の立派そうな店員以外は、外国人に対して英語を使おうという発想があまりない気もするので、嬉しくなってたくさん買ってしまいました。ちなみにガルブーシカは「地球の歩き方」にも書いてある通り、たくさんの海賊版メディアが売られています。これらは店頭に並べられていることはないのですが、興味ありげに商品を見ていると、こんなのもあるよ、と何冊も目録を手渡されます。前述した店では、コピーDVD以外にもそのおじさんがテレビの音楽番組を単に録画しただけのようなものもあり、そのチョイスがまた絶妙で感動しました。

ドーム・クニーギやビブリオ・グローブスといった大型書店でもCDやDVDは売っていますが、これらの店では正教の聖歌や民族音楽、帝政時代からソ連までの軍歌、プロパガンダ曲などが充実しています。ソ連国家ソ連の全共和国の民族音楽をまとめたセットなどもあり、同じコーカサス諸国の中でも、キリスト教やイスラム教の影響を受けていたり、宗教は違うのに音楽は似ていたり、と様々な発見があります。そのようなものは日本ではなかなか手に入らないと思うので聞いてみる価値はあると思います。2012年はナポレオン戦争200年記念年ということで、当時の宮廷音楽や軍隊行進曲などをまとめたCDなどもあったのですが、ロシアらしさはまだなく、少し残念でした。他にも音楽関係の本や古本を売っている専門店もいくつかあります。

レニングラード包囲戦最中の「レニングラード交響曲」演奏の告知

④さいごに

ロシアは音楽文化大国であることは確かなのですが、楽器や楽譜、書籍やメディアなどの「物」という点で見ると、やはり日本の方が豊かです。しかし、ロシア人の音楽に対する向き合い方が日本人と違うのも確かです。モスクワ大学の本館のホールでは月に2回くらい演奏会が催されます。これは、フェドセーエフやゲルギエフといった世界的な指揮者・演奏家が交代でやってくるにもかかわらず、無料です(今後留学される方に向けて極秘情報。この演奏会のチケットは先生がよく配ってくれますが、文学部がある建物の9階の突き当りに、自由に取れる形で置いてあります)。また、作曲家のシチェドリンの80祭の誕生日には、モスクワ大学に、本人と奥さん(名バレリーナのマイヤ・プリセツカヤ)を招いた演奏会が催されました。世界的ヴィオラ奏者のユーリー・バシュメットの60歳の誕生日には、マスコミを動員した3日連続の特別公演が組まれ、その後もテレビでバシュメットに関する特番が続いていたのを記憶しています。ロシアの音楽文化は社会に開いていて自由に入ることも出ることもできるようなものなのかもしれません。その気楽さが、全ての演奏会で拍手が手拍子になる伝統に表れているような気がします。日本でそれをやったら、きっと怒る人がいるでしょう。ロシア文学ばかり読んでいると、きっと頭も重くなってくると思うので、たまには「だったん人の踊り」でも聞いてみるのもいいのではないでしょうか。

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